「フィジカルAI」ってなに?ロボットなど現実で動くAIの期待と課題、日本の動き

「フィジカルAI」ってなに?ロボットなど現実で動くAIの期待と課題、日本の動き(総務省の白書)

最近、「フィジカルAI」という言葉を見かけませんか。ChatGPTのように文章を作るAIとは別に、ロボットなど、現実の世界で「動く」AIのことです。

総務省の「令和8年版 情報通信白書」に、フィジカルAIの解説と、日本の研究・実用化の動きがまとまっています。この記事では、その内容を、やさしく整理しました。

フィジカルAIって、なに?

国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センター(CRDS)のプロポーザルでは、フィジカルAIを「センサやアクチュエーターなどの物理的な機構を通じて環境と相互作用し、得られた入力と動作の結果にもとづいて知能を獲得・発達させる、身体性を備えた人工知能」としています。

むずかしい言葉ですが、ざっくり言うと、体(ロボットなど)を持って、まわりの様子を感じとり、動いた結果から学んでいくAIのことです。広い意味では、スマートグラスのように、空間を認識して、デジタルの世界に結果を表示するものも含まれますが、白書では、ロボットのように、現実の空間に影響を与えるものを中心に取り上げています。産業用ロボットだけでなく、人型ロボット(ヒューマノイド)の研究開発も盛んになっています。

どんなことが期待されているの?

  • 人間のようにいろいろな作業をこなせるようになり、部品や組み立て方法の違う製品を、1台のロボットでつくれるようになる
  • 家庭で、ロボットが家事をすべて代わりにやってくれる
  • 災害現場での作業を、代わりに行ってくれる
フィジカルAIへの期待

ただし、ロボットが、環境に合わせて柔軟に多様な作業をこなすには、課題もあります。CRDSのプロポーザルは、次の3つを挙げています。

  • 巧緻性:いろいろな作業に対応できること
  • 頑健性:いろいろな環境に適応できること
  • 協調性:人間と安全に協力して働けること
ロボットの3つの課題:巧緻性、頑健性、協調性

日本は、どんな立ち位置?

CRDSのプロポーザルは、日本の強みとして、産業用ロボットの制御・統合技術や、災害対応など、ロボットの活躍が期待される現場への対応を挙げています。アメリカや中国が、大規模なデータを使った「何でもできる汎用性」を重視するのに対して、日本は、実用性を重視して、各分野の社会実装に合わせたロボット技術を使う「分野特化型」のアプローチだと整理されています。

専門家の見方もあります。

  • AIロボット協会(AIRoA)のCTO、東京大学の松嶋達也特任助教:日本はロボット技術に強みがあるが、今後は、ソフトウェアやAIとの融合がカギになる。ロボット産業は、ハードウェアが必要なこともあり、1社だけで急に事業を大きくするのが難しいので、業界全体でデータや知見を共有し、エコシステム(関係者が支え合う仕組み)を育てることが大切。
  • 国立情報学研究所の佐藤一郎教授:現実世界のデータにこだわらず、仮想空間でAIの学習を進めることも有効。日本の工場用ロボットのハードには、まだ強みがあるので、今後AI分野を強化できるかが分かれ目になる。たとえば工場向けなら、日本の工場で働いていた熟練者など、作業手順をよく知る人の力を借りて、AIの学習を進めることが、日本の勝ち筋につながる可能性がある。ファミリーレストランの配膳ロボットを例に、作業をすべて自動化しようとせず、人がやるべき作業とロボットに任せる作業をうまく切り分けるべきだとも指摘。

研究では、何が進んでいる?

フィジカルAIの情報処理は、入力、処理、出力の3段階に分けられます。入力・出力では、ロボットハンドや触覚センサ、処理では、視覚・言語など複数の情報を統合した基盤モデルや、世界モデルなどの研究が行われています。

手の「触覚」と「近接覚」

  • 触覚センサのシート:東京大学の長谷川峻特任助教らが、約20cm四方に、28×17の計476個のセンサを載せた触覚センサシートを開発しました。折り曲げられて、ロボットハンドの形に合わせて切り貼りできます。このシートの一部を使い、190個の触覚センサを載せた5本指ハンドもつくり、指と指の間の摩擦や、物を握るときの情報を取れるようになったそうです。
  • 近接覚センサ:近接覚は、表面に近い距離にある物の情報を取る感覚です。Thinker株式会社は、独自のエッジAIと赤外線を組み合わせて、物との「距離と姿勢」を、触れずに高い分解能で、リアルタイムに測れるセンサを開発しています。同社は、柔らかい物や形が一定でない物をつかめるようになるほか、従来の光センサやカメラが苦手だった透明な物や鏡のような物も測れるようになると説明しています。

頭脳にあたる「基盤モデル」

  • GENIAC(生成AIの開発力を高める国のプロジェクト)で、Direava株式会社が「外科手術支援のための視覚・言語統合型AI基盤モデル」、Turing株式会社が「完全自動運転に向けた車載可能なフィジカル基盤モデル」の開発に取り組んでいます。
  • 産業技術総合研究所(産総研)は、2025年1月、実世界の困難な作業の自動化をめざして、ロボット基盤モデルの研究開発に取り組むと公表しました。双腕ロボットAIの開発を支援するデータセットも、無償で公開しています。
  • 内閣府のムーンショット型研究開発制度の目標3(2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し、人と共生するロボットを実現)では、2026年5月に14名のプロジェクトマネージャーが採択されました。2030年までに、特定の現場の特定の作業について、人の支援のもとで、状況の変化に対応しながら一連の作業をやり遂げられる、汎用自律人型AIロボットのプロトタイプの開発などをめざしています。

もう実際に使われているロボットも

社会に出はじめている例は、次の3つです。

実用化されているロボットの例
  • ファナック:ROS2ドライバ(オープンソース)を開発して、世界中のユーザーがロボットを使える環境を提供しています。ロボット制御装置は、パソコンを介さず、Pythonのプログラムを直接実行できます。公開されている事例には、言葉の指示から、生成AIがPythonのプログラムを自動で作って実行する様子、2本のアームで柔らかいケーブルを配線する様子、動く部品にリアルタイムでねじを締める様子などがあります。
  • ugo株式会社:警備や案内をする「ugoPro」は、2本のアームでカード認証やエレベーターの操作を行い、フロアをまたいで移動できます。顔のディスプレイがあり、AIによる自動回答で、多言語で会話でき、必要に応じて遠隔操作に切り替えて、人が応答することもできます(2024年度 第11回ロボット大賞 優秀賞)。
  • Preferred Robotics:小型の搬送ロボット「カチャカ」は、自己位置の推定が得意で、多様な環境でもぶつからず、最適な経路で荷物を運べます。製造現場の運搬のほか、クリニックでの器具の運搬や片づけ、飲食店の配膳など、幅広い場面で使われています(2024年度 第11回ロボット大賞 総務大臣賞)。KDDIは本社オフィスで「カチャカプロ」を導入し、複数のフロアにまたがる社内メール便の搬送の一部を自動化しています。エレベーターと自動で連係して、カチャカが自分で呼び出して乗り降りするそうです。

まとめ:人とロボットの役割分担がカギ

フィジカルAIは、現実の世界で動くAIです。日本は、ロボット技術やものづくりの現場に強みがあり、今後は、AIとの融合と、人とロボットの上手な役割分担が、カギになると指摘されています。

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出典